カミュ著『ペスト』

新型コロナウイルスによる世界中の大パニックの最中、本屋に平積みにされていた。世の中の情勢に応じて柔軟に陳列をアレンジしていくマーケティング。大変勉強になる。

image-カミュ著『ペスト』 - JKF池下

このペストという疫病は本当に恐ろしい。肺に入ってしまうと致死率はほぼ100%らしい。また、新型コロナウイルスと違い、筋肉質の屈強な人や健康な人が次々に倒れていく。

ロックダウンされた街の人々による、それぞれの立場からの正義、不安、恐怖を、まるで現実さながらに心理描写している。今回の新型コロナウイルスにおける大パニックと被るところがいくつもあり、「こんなことになる前に読んでおけば、もう少しパニックにならずに済んだのにな」という後の祭り的な感情を持った。アフターフェスティバル、というやつである。

事実は小説より奇なり

この小説におけるペストはロックダウンに成功したようである。この街以外にペストが広まったというストーリーではない。だから、世界規模で考えると、今回の新型コロナウイルスによる大パニックは、小説『ペスト』をも超えたといっても過言ではない。まさに、事実は小説より奇なりである。

病状としてはペストの方がよほど怖いが、経済的な打撃に関していえば、小説よりも完全に上回っている。本当にすごいことが起こってしまったものである。このまま人vs人の戦争が始まることなく、数年後に今回のウイルスvs人の戦争を、国連から第三次世界大戦と名付けてほしいものだ。

個人的にはそのくらい凄まじい経験をした。人によっては「リーマンショックの方が……」という人もいる。しかし2月末、安倍総理の会見における「スポーツジムでのクラスター発生」という発言は、キックボクシングフィットネスのJKFにとってド真ん中ストレートだった! おかげで大変な恐怖に見舞われてしまった。

まだよくわかっていなかったウイルスへの恐怖と、経済的打撃による恐怖とで、倍増、いや倍々増していたのである。ちなみにリーマンショックは、世の中の人間による身から出たサビだと思っている。今回の新型コロナウイルスも、ひょっとしたら人災なのかもしれない。けれども、私の中では天変地異として位置付けていて、「ワカラナイ」「目に見えない」ということがどれほど人々を恐怖に陥れるかを目の当たりにした。

思いや魂は文章や映像に宿る

この『ペスト』でも、闘病のときの描写は小説ならではの展開の仕方。「これは上手い!」と思った。男たちの友情に関しては、映画『グッドウィルハンティング』(マットデイモン主演)を思い起こさせる熱いものを感じた。

ちなみにカミュは、40代後半で不慮の交通事故死。『異邦人』という小説も大変有名だ。すでに手元にある。近々読んでみたい。

生命自体は絶えてしまったとしても、思いや魂は文章や映像に宿っている。それはとどのつまり、生きていることと同じなのではないだろうか。

明るく生こまい
佐藤嘉洋